No.826 阿蘇 赤谷 (ルート情報)

 日時:2018年1月28日

メンバー:MN IK   

天候:雪 

気温:‐5~0℃ 

風:10~15m

活動時間:7時間14分(7:18→14:23)、活動距離:7.42km、

高低差:854m、累積標高:+1,075m / -1,073m


阿蘇 赤谷ゴルジュ(冬季)のルート情報

熊本地震以降赤谷の状況はかなり変わった。以前は、氷がついていなくても岩肌に結構引っ掛かりが多く苦労はするが登れないことはなかった。

しかし、地震以降はゴルジュ状の赤谷全体が水の流れがよくなり、2つの結果をもたらしている。

①水が滞留しにくくなり氷ができにくい。

②土石が一気に流れやすくなり岩肌の浸食スピードが上がりつるつるのスラブ状に近づきつつある。

いずれにしても氷や岩のミックス登攀ができる数少ないエリアが初心者には楽しみ辛くなってしまった。

熟達者の2人パーティでは関門から頂上台地まで3~4時間、初心者を含む4人以上程度のパーティでは5~8時間を見ておいた方がいい。

【関門までのアプローチ】

 仙酔峡まで車で行けなくなり、車止めのゲートから仙酔峡駐車場までは片道40分を要するようになってしまった。復旧はかなり進んでおり、2018年のGWまでには仙酔峡まで行けるようになるのではないかと思う。

 仙酔峡から尾根を二つ越えると砂防堤建設のための作業道とぶつかる。ここから作業道のドンつまりまで10分ほど歩き、土石流あとの沢の中を行ってもいいし、ススキのかぶった従来の道を行ってもいい。雪が多くススキが覆いかぶさるときは沢沿いのほうがいいかも。仙酔峡から関門までは歩きやすいときは45分、ゆっくりと汗をかかないペースで行くと70分くらいかかる。天気が良く風がなければ汗をかいてもいいが、風が強いときなどはできるだけ汗をかかないようにしたい。

【関門から赤谷・赤枯れ谷に出合まで】

 まず関門の滝がある。3mほどで、氷がなくてもついていても問題なく登れる。ウォーミングアップといったところだ。ベルグラがつきいやらしいときは右岸から小巻きしてもすぐに戻れる。

 高度差50m水平200mほどで出会いにつく。10~15分。関門でクランポンをつけアックスも持ってこの間でギアの感覚をつかもう。

【出会いから三段滝まで】

 赤谷のゴルジュは出会いの滝をF1、そしてF2~F4が連続し、最後に三段滝がある。三段滝は地震の後、一段目が埋まってしまい今は二段となっている。名称としては今まで通り敢えて『三段滝』と呼ぶことにする。この連瀑の最上段には『エイリアン氷』と呼ばれる庇状の氷が発達する。大きいときには1m近く水平に張り出すこともある。

 F1(15m)・・・下部は緩く上部で傾斜が強くなってくるが氷があれば全く問題ない。氷がないときはやや難しいが左岸寄りに手掛かりが多い。中段にはカム(#0.75~1.5)が効くので安心だ。滝を抜けた後の支点はないので後続は肩がらみでのビレイとなる。

 F2(13m)・・・氷がなくても問題なく登れると思う。ここで苦戦するようであったらこの辺で引返した方がいい。

 F3(15m)・・・氷があれば快適に登れるが、氷がないと全体的に傾斜が強く難しい。上部はかぶり気味でここを抜けてもノペッとしており注意が必要。中段右岸に1本、上部左岸に1本ステンレスのアンカーボルトが残置されている。阿蘇では残置支点は絶対信用してはいけない。もともと泥岩に設置してあるので極めて脆弱だ。前進用として考えておいた方がいい。自然のルートでの残置支点はどこでもいつでも議論になる。この赤谷では、落ちても死ぬことはないので、残置支点には疑問だが、上部に抜けるためのアプローチのための設置となると、まあそれもありかなあとも思う。マスコミで過熱報道される「天然記念物にボルトが…」などは、登山の歴史や文化を知らない勉強不足のマスコミのウケ目的のものがほとんどなので気にしなくてもいいと思う。必要最小限ならあってもいいじゃないか。 観光客が見物に来るわけでもないのだから。また、嫌な人は使わなければいいし、目障りで気が済まないなら抜いてもいいと思う。すべて自己責任だ。

 F4(15m)・・・F3を超えてほっとしている暇はない。最大の難所が待っている。F4だ。近年浸食がすすんで、来るたびに難しくなっている。完全に渇いているか、濡れていても氷や雪がついていない状態ならば、反則だがクライミングシューズや沢靴でスラブ感覚で登ると何のことはない。これがクランポンとアックスになると引っ掛かりがほとんどない。ここで敗退の経験がある方も多いんじゃないか。上部に1ピンあれば怪我する可能性は低いが、ピンもないので、かなりの積雪がなければケガしてもしょうがないだろう。自信がない人はやめておいた方がいい。途中で引き返す場合、懸垂用の支点が取れないときもある。そのためにジャンピングセットは準備しておいた方がいい。F4は側壁を巻く手もあるが落下距離が大きく極めて危険だ。巻くくらいなら直登した方が安全である。

 三段滝(0m+5m+3m)・・・前述したとおり以前は下から8+5+3mの3段の滝であったが地震後最下部が完全に埋まって、今は2段となっているが敢えて3段滝と呼ぶことにする。

F4を超えたものだけがこの滝にとりつくことができる。この三段滝が赤谷ゴルジュの一番面白いところでもある。九州で完全に氷結しアイスクライミングが楽しめるのは阿蘇エリアや大崩エリアなど数少ない。その中でアルパインクライミングも満喫できるのはこの三段滝くらいである。完全に氷結していれば赤谷ゴルジュでは一番やさしい。アイススクリューなどの中間支点も必要はないだろうが、傾斜が緩いところから立っているところもあるので、支点工作の練習にはもってこいだ。私は30年近く赤谷に毎年通っているが、三段滝が氷結していないのを見たのは今回が初めてだ。埋まった滝を1段目、2段目は斜度70度5mで簡単に登れる。2段目と3段目の間には2mほどの水平なテラスがあるのでここでピッチを切ってもよい。3段目はほぼ垂直で落ち口にエイリアン氷があるときがほとんどだ。特にこのエイリアンを越すときは落氷があるので後続は十分注意しなければならない。

 氷がないと難易度は一気に上がる。2段目はツルツルとなり非常に難しい。3段目は被っているのでさらに難しい。

登れないときは奥の手がある。2段目の滝の基部から右岸に泥と岩のミックスのルンゼを登る方法だ。支点にはワトグ(イボイノシシ)やBDのスペクターが有効だ。泥のルンゼを20mあがり、1mの段差を超えると背丈台の灌木のブッシュとなり、境界尾根のピークを左から回り込むとコルに出て、三段滝を超えてきたルートと合流する。三段滝下から境界尾根コルまで30分かかる。

【三段滝上部】

 三段滝を超えると選択肢は4つある。

① 懸垂で引き返す 

② 右へルートを取りカンスノツルの側壁末端のコルを目指して上がり込み、そこから関門下へ急なブッシュを下る。

③ 正面の奥壁を超える

④ 境界尾根を越え赤枯れ谷を下る

⑤ 境界尾根を越えダイレクト尾根から高岳へ上がる。

 ②のカンスノツル末端を越え関門下に下るルートは激しいブッシュがつき急なところもあり場合によっては懸垂が必要になる。

 ③はA右端のカンスノツル側壁の弱点を上るルート B中央のクラックをカムを効かせて人工で登るルート Cそのすぐ横の凹角状を泥壁にアックスを効かせて登るルート D左端の赤い壁の左の段差の弱点から上がる方法 Eさらに左の奥壁端を詰める方法 いずれにしても先の見えない難しいルートだ。ほとんど中間支点も取れないので上級者のみが取り付くことができる壁だ。

 ⑤のルートが王道であろう。まず三段滝から境界尾根コルを目指す。手前の急なルンゼを上るルートとその先の浅いルンゼを上るルートがある。手前のルンゼは上部が立ってくる。境界尾根コルまでは3段滝から15~20分程度だ。境界尾根につくと尾根を忠実に上りながら左の赤枯れ谷上部末端のブッシュの弱点を突き、崩壊した沢を横切り次の小尾根に乗る。さらにルンセ状の沢の末端の先に「しんちゃん岩」が立つ小尾根が見える。しんちゃん岩は昔はイースター島のアモイ像そっくりであったが近年は頭部が小さくなり見分けにくくなっている。しんちゃん岩の小尾根手前のルンゼ状の沢の末端を詰めるか、しんちゃん岩の直下を乗越し、ブッシュを上り詰める。あるいはしんちゃん岩の小尾根に乗り尾根を詰める。いずれにしてもしんちゃん岩から延びる尾根に上がり込み、ダイレクト尾根出だしのチムニーへ到達する。

【ダイレクト尾根基部チムニー下から頂上台地へ】

 チムニ基部にはステンレスのハンガーと青い残置テープが残っている。チムニーは左右二本あり左が一般的だ。チムニーに侵入すると体を反転し、九重方面に顔を向け、右手の段に乗り込む。ここからチムニーをまたいで反対側の壁に移る。ここが勇気がいるところだ。反対の壁に移ったらほぼ垂直の泥壁をアックスを躊躇なく叩き込んで3m登と小尾根のテラスにつく。

 チムニー基部からはチムニーを登らず右に巻くルートが簡単だ。出だしこそ右下が切れ落ちているが問題ない。上述のチムニーから上がってきた小尾根のテラスにつく。声が通らないのでここでピッチは切る。

 小尾根のテラスから右下の上部が右に曲がったルンゼに降り、そのルンゼを詰める。泥壁にアックスが効く。30mほどで右にブッシュ帯が見えてくるので、適当な灌木を選んでピッチを切る。

 ここから先はブッシュの中でもいいし、小さなルンゼを詰めてもいい。あとは尾根に出るので尾根通しに忠実に登っていくとダイレクト尾根P1・P2がある。どちらも阿蘇鷲ヶ峰の眺望がすばらしい。さらに尾根伝いを進むと正面が壁になる。ダイレクト尾根基部のチムニー下からここまで約1時間である。

 壁に突き当たったところ正面に『腰かけ岩』がある。えぐれた溶岩の壁に突き出したお尻くらいの大きさの岩がそれだ。ここはムーブさえ守れば簡単に超えられる。この腰かけ岩にお尻が鷲ヶ峰方向を向くように座らなければならない。ここにこの態勢で座りさえすれば登れるし、それでないと登れない。あとは座っているところに足をあげ⇒たちあがり⇒ホールド豊富な壁を0.5m上がり、その後は傾斜の緩んだ泥壁にアックスを効かせ登りこめばおしまいだ。

 腰かけ岩を超えると30mでまた壁が現れるが、ここは一番低いところが1.5mほどの段差。アックスを躊躇なく叩き込み、クランポンを小さな岩角に引っ掛け力任せに上体をあげれば頂上台地に到着だ。ここから西へ10分ほどでバカ尾根の下降口だ。視界がないときも下降口には案内支柱が立っている。


連日の寒波で、今朝からは雪も降り始め、阿蘇の町に入る前から積雪もみられたため、かなり期待してやって来たが、期待は見事に裏切られてしまった。

 赤谷にはサラサラの粉雪が積もっていたものの、氷は全くついておらず、三段滝のエイリアン氷さえ消失していた。この状態では無理して滝を登っても面白味は少ないため、右岸のルンゼへ迂回し、比較的粗なブッシュの斜面をトラバースするようにして、境界尾根へ上がり込んだ。後は通常通り、腰掛け石から高岳へ上がり、仙酔(バカ)尾根を下り、駐車場から補修中の道路を歩いて、入山地点に停めた車まで戻った。

 新年早々、インフルエンザで家族がほぼ壊滅状態となり、仕事も詰まっていたため全く山に入れていなかったが、KIに引っ張られて何とか今年初の沢を登ることができた。

↑ 仙酔峡道路の通行止め地点から少し上がると左側にこの分岐点に通じる歩道がある。


↑ さっきの道標の「行き止まり」に従って、右に林道を進めば約1時間程で関門に着く。

↑ 先行していたMさん達のグループに追いつく。

↑ いつも通り、関門で登攀装備を整えて赤谷に入ったが、期待していた氷は全くついておらず、岩に積もったパウダースノーを払い除けながらの登攀となる。昨年末の登攀より更に厳しい状態になっていた。 私も三段滝の一段目をリードでトライするもアックスが効くほどの氷はなく、滑り落ちてしまう。

↑ 昨年末の登攀の経験から、氷のない滝で時間と体力を消耗するのを避け、これまであまり使ってないルート(三段滝右岸からピークを回り込んで境界尾根に上がる)を取り、高岳に到着。山頂は吹雪気味で、顔に当たる雪がいたい。 KIはユニクロのシェルとミッドレイヤーのパンツでの登攀、寒くないのかな?

↑ バカ尾根を下り始めて、雪も積もっていたのでアイゼンを外したが、歩き易くなった代わりに滑り易くなってしまった。パウダースノーのお陰で斜面の状況が読めず何度か滑ったものの、やはり雪のお陰で大したダメージもなく無事に下山。 私はMILLETのバーゲン品のシェルと履き古したアウターパンツを着ていたので、そんなに寒くはなかったが、高度が下がると雪から雨に変わり、車に戻った頃には身体は冷えきってしまった。



山岳冒険倶楽部 星と焚火

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